◎かざぐるま
◎熱気と感動―手塚治虫さんのこと
◎池田知隆(E2、ジャーナリスト)
「アトムは最初、女の子だったんです」ーー。ベレー帽姿の手塚治虫さんは「鉄腕アトム」の秘密をいかにも愉快そうに私に打ち明けてくれた。「だって、あのパッチリした目、スラリとした脚の線はタカラヅカの男役と同じでしょう」
スピルバーグの映画「未知との遭遇」の試写会の前、一時間だけ時間を割きましょう、と帝国ホテルのロビーでインタビューに応じてくれた。半世紀近い昔、タカラヅカで「ベルサイユのばら」の大プームが沸き起こっていたころだった。
「実はね、宝塚歌劇のアマチュアリズムはまさにボクなんです」
「えっ、どういうことですか?」
「ボクは絵がヘタだと言われた。自分でもそれはわかっているし、だからこそ、一所懸命にやるし、常に努力をしてきた」
「いやいや、そんな、ヘタだなんて……」
「そうなんですよ。でも、上手になって、枯淡の境地に入れば、いつしかおさまりかえり、ウマイというたった一言で終わってしまう。うまくなろう、うまくなろうと挑戦していく<熱気>こそが人を感動させるのであって、かろうじてボクの漫画が戦後ずっと読まれてきたとすれば、人気の秘密はここにあるんですよ」
美しい構図の絵を見ても、それだけでは人を感動しない。手塚さんは、人が人の心を打つのは「よくがんばっているなあ」という作品ににじむ熱い思いにある、というのだ。女性たちに人気の「ベルばら」は舞台で動く劇画。そのル―ツは戦後のストーリー漫画を切り拓いた手塚漫画だった。軍国調の波が押し寄せたとき、手塚少年は宝塚ファミリーランド(遊園地)で遊び、「ユートピア」の世界をはぐくんだ。宝塚―手塚ー劇画ー宝塚の見事な円環があった。
それらを貫いているのは人間の〈熱気〉なのだ。あのとき、生きていく上で大切なことを教えてもらった、と深い感銘を受けた。いま、どこかクールなAI(人工知能)が世界を覆いつくそうとしている。「おーい、君も、何歳になっても〈熱気〉を失っなちゃだめだよ」。天空からそんな手塚さんの人懐っこい声が聞こえてくる。