100年前に「昭和」という時代が始まった。昭和天皇が「人」から「神」となる御大礼(大嘗祭・即位の礼)が行われた1928(昭和3)年、東洋初のロボット「学天則」が誕生した。「現人神」を祝う御大礼記念京都大博覧会で、西村真琴が披露した自然の摂理に即した人造人間だ。「ロボット元年」といわれるこの年の明治節(11月3日)には、手塚治虫が産声をあげている。
「神は人を造れり、人は人の働きに神を見出す、神を見出さゞる文明は呪はるべし」。京都大博覧会に出品された「学天則」の盾に和文と英文でそう刻まれていた。大きな目をした全身金色の半身像で、手が静かに動き、表情がゆるやかに変わる「考える」ロボットだ。80年後に大阪市立科学館で復元、展示されている。
日本の「ロボットの父」とされている西村は、北海道帝大教授から大阪毎日新聞論説委員に転じた植物学者。企業に所属した日本初の科学ジャーナリストであり、二代目「水戸黄門」役を演じた俳優、西村晃の父でもある。マリモの研究者による「学天則」は、手塚の心優しい鉄腕アトムやドラえもんにつながり、欧米の機械型ロボットとは異なる日本独自のロボット観を形成した。
その一方で、「ロボット症」といわれる人間がいる。「あらかじめプログラミングされた感情以外に思いやりや同情心を持たない」人間のこと。指示に従うだけだから、責任をとらない。「昭和」の戦時下、日本人は総じてロボット化し、敗戦時には「一億総懺悔」して国民の多くが責任を取ることへの自覚症状がなかった。
いま、「いのち輝く未来のデザイン」を掲げて開催中の大阪・関西万博では、人間そっくりのアンドロイドや学習型のAIロボットが関心を集めている。指示に従うだけの「ロボット症」人間であれば、将来、AIロボットに使われることにもなりかねない。
胸に宇宙を意味するコスモスの花を飾り、世界中の民族の特徴を混ぜ合わせた「学天則」の不思議な顔は仏像のようにも見える。「未来のロボットは?」と聞けば、「それはあなた」との答えが返ってきそうだ。何かに使われるだけの人間にはなりたくない。