2021年5月31日月曜日

越境する技術支援

 越境する技術支援

 「国境なき技師団」をご存知ですか。
 医師団や記者団は知っていたが、技師団のことは本が送られてくるまで何も知らなかった。
 「国境なき技師団スマトラ島から東北へ1災害復興支援の15年1」(濱田政則ら著者6人、早稲田新書)。本の送り主は、私の社会部記者時代に親しくなった共同通信OBのTさん。初々しい新人記者だったTさんも退職し、早稲田大学出版会編集部長に就任していた。約40年ぶりの便りには熱い思いが綴られていた。
 「記者としては何もできませんでしたが、いま新書の出版に追われています。大学出版会としては1989年に東京大学出版会の『東大新書』が廃刊されて以来の試み。知恵をお貸しください」
 「国境なき技師団」は、医師団とは援助に使う技能が異なるだけで、医療技術ではなく、エンジニアリング技術を使う。救える命は一つでも多く救う。救えた命は限りなく幸せになってほしいと願い、幸せの道筋をつけていく点は同じ。予防接種や外科技術の代わりに、防災教育や耐震技術を通じて命を救おうと、2004年12月のスマトラ沖地震・インド洋大津波をきっかけに設立された。
 多くの災害に見舞われる日本は「防災先進国」でもある。日本の高度経済成長期に培った土木、建築技術などはシニア技術者個人(団塊世代、年金受給世代)に埋もれている。長年にわたって働き、苦闘し、知恵をだしてきた技術者は、豊富な現場経験と知識、そして人脈を併せ持っている。「最後のお勤め」としてシニア技術者が社会で果たす役割は大きい、というのだ。
 インドネシア、バングラデッシュ、パキスタン、中国での復興を支援し、東日本大震災の被災自治体にシニア技師を派遣してきた。国際協力機構(JICA)などが国の機関として技術協力しているが、防災技術をめぐって民間で緊急援助する意義は確かにある。
 人が生きるうえで無駄はなく、どこかに活きている。なにか社会に貢献したいというTさんの意欲に触れてそう思う。コロナ禍でナショナリズムが高まり、最新技術の囲い込みも強まっている。国境を超えて善意と支援を保とうとする試みは大切にしたい。(2021年6月1日)

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