ミナマタ
一人の写真家を通して水俣病を世界に問いかけた映画「MINAMATAミナマタ」が今年9月に公開された。
約半世紀前、患者家族の救済活動や裁判闘争を横目に、社会人としてどう生きていけばいいのか、考えながら高専を巣立ったことを思い出す。
東京工大の上田紀行教授(文化人類学)は、社会正義と内部告発について毎年同じアンケートを取っている。内容はこうだ。
〈あなたが大企業に就職し、東南アジアの工場に派遣された。ところがその工場では川に毒を垂れ流していて、下流で老人や子どもたちが亡くなっていることがわかった。あなたはそれに気づき、工場長に報告して排水を止めるように進言する。
すると、工場長は、「いやいや、それは俺たちの問題じゃないだろう。俺たちは3年の期限でここに来ている。生産のシステムをつくったのは本社の人間だから、これは本社マターで社長が決めることだ。俺たちが声を上げたら俺たちが馬鹿を見る。現場の俺たちは知らないことにして、黙っておくのが処世術として一番だ」と答えた。あなたは社内の他の人にも相談するが、誰も賛同してくれない。さあ、どうするか。〉
答えは3択です。
①自分の名前を出して内部告発する
②匿名でインターネットなどに書き込む
③何もしない。
2006年の結果は、200人中で①が5人、②が15人、そして残りの180人が③の「何もしない」。
上田教授が「どうして何もしないの?」と聞くと、「何を熱くなってるんだよ。何もするわけないじゃん」という表情だった。上田教授は退職するまでに「他人の苦しみより自分の保身を選ぶ若者をゼロにする」と心に誓ったそうだが、いまはどうだろうか(『平成論』NHK出版新書)
近年、環境問題などを通して若い人に「利他」への関心が高まっているという。新型コロナ対策の給付金10万円の使い道調査では、一部を寄付に当てたいと答えた人の割合は、若い20代が37%と年長世代に比べて倍以上だった.日本社会の劣化が叫ばれているが、他者への思いやりを抱いた若い人たちの未来に希望を委ねたい。(2021年12月1日)
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