大きな赤い壁がありました。いつ、だれがつくったのか。知りたがりの小さなネズミは思いました。
「ふしぎだな、きになるな。このかべのむこうになにがあるのだろう?」
こわがりのネコは「わたしたちをまもってくれてるのよ」といい、「むずかしいことかんがえるのはやめろよ」とキツネはにっと笑う。でも、ある日、飛んできた空色の鳥といっしょに壁をとびこえたネズミは……。
絵本『かべのむこうになにがある?』(ブリッタ・テッケントラップ作、風木一人訳。BL出版)のあらすじだ。今年の全国読書感想文コンクールの課題図書で、ひらがなだけのこの絵本の読書の対象は小学5、6年生。色彩豊かな絵本の世界は深く、スマホ世代の子どもたちだけでなく、大人たちの感想も聞きたくなる。
ふと、高専の4年生のころ、授業中に熱く語った教師の言葉が浮かんできた。「金魚鉢の金魚のように、鉢の中をできるだけ大きく動き回るんだね」。就職が気になり始めた学生たちに、与えられた環境(居場所)で精一杯、自己表現してほしいと諭した。
だが、水俣病など公害問題で企業の社会的責任が問われだしたころで、私はちょっと気になった。「鉢の外の世界はどうなの?」
絵本の中では、ネズミの勇気に動かされ、他の動物たちも壁を越えていく。「かべのむこうになんてなにもない。やみだ。はてしないやみだ」という老いたライオンを残して……。くたびれ、長いこと、ほえることもないライオンにも、若いころに壁を越えようと何度か挑戦して、諦めた過去があるのかもしれない。だが、最後はそのライオンもついていき、みんなといっしょになる。
いつしか私も老い、好奇心や勇気を失ってはいないか。
「幸福な監視国家」という中国の壁に挑み、「自由」を求める香港の若者たちの姿がまぶしい。壁を意識せず、深く考えなければハッピーなままでいられるかもしれない。壁をどう
越えるのか。「こわいとおもうから こわいものがみえるんだ」。「ほんとうのものを みる ゆうきが あれば かべはきえる。ぜんぶ きえたあとには きっと すばらしいせかいが あるはずだよ」。絵本の鳥の言葉が胸に響く。
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