2024年12月29日日曜日

「学位」の壁

◎「学位」の壁

 これが、還暦を過ぎた高専の現実なのか。光学関連の代表的企業F社の就職案内に衝撃を受けた。初任給の欄にこうあった。

 「高専本科卒237000円、高専専攻科卒249700円、学部卒28万円、修士了307100円、博士了331900円」

 特に、高専専攻科卒と学部卒の3万300円の差額は、いったい何を示しているのか。この評価は一般的なのか、特別なのか。

 さらに今年7月、「国会高専人会」が文部科学省に「高専(本科)卒業生に『短期大学学士(Associate Degree)』の学位授与を要望」というニュースが目を引いた。高専本科卒業生に与えられる「準学士」は国内的な「称号」であって、国際的には「学位」として認められていない。国会内に集まった高専関係者が、「短大卒」の学位を求めているというのである。

 「準学士は学位ではなかったのか」。ネットでは高専卒業生から驚きの声が上がり、中には、怒りに満ちたコメントもあった。

 「怒りすら覚えます。6334年制に対し、635年制の高専は、亜流としての学歴に過ぎなかったことが残念でならない。短大扱いを目指すのが精一杯なのか。高専を卒業して45年。こんな記事は、無念でしかない」

 アジアや欧州で知的労働や研究をする場合、ビザ発給に「学位」が求められるケースが少なくない。国外の会社に職を得るとき、「学位」がないことで就労ビザを取得できないこともある。「KOSEN」システムを導入したモンゴルでは「短大卒」の学位が与えられているのに、本家の日本にはそれがないというのは変な話だ。

 高専は、学術的な「研究機関」ではなく、技術者を養成する「教育機関」とされ、学位付与に関心が注がれてこなかった。現場の教職員の間には「学位付与のための事務手続きが増える」「高専はすでに社会的に評価され、費用対効果が見合わない」などの意見もあるという。だが、高専生にとって海外就職や留学を妨げる「学位」の壁があるならば、早急にその壁を取り除いてほしい。グローバル化した世界において「KOSEN」にも改革が必要のようだ。

 (2024年12月1日、萩尾坂NO,70)