プライドのゆくえ
高専の初期世代(設立後10年までの卒業生)のキャリア満足度は89.4%。はて、そうなのか。ちょっと意外な気がするが、草創期の高専生のプライドを表しているのかもしれない。
この「高等専門学校から見た学歴社会ー初期世代に注目してー」という研究を送ってくれたのは、都城高専機械工学科3期生のTさん。ガス・エネルギー関係の商社に44年間勤務し、定年退職後に入学した早稲田大学人間科学部の卒業研究として昨年まとめた。
まず初期世代の友人を通してアンケート調査を実施(回収数119)。受験理由、在学中に中退を考えた理由、高専選択や職業キャリアの満足度について分析し、その後の第2・第3世代に関する先行調査と比較した。すると、大きな違いがあった。
初期世代は入学時に「5年間で大学並みの高等教育を受け、杜会では大学並みに扱われる」といわれたが、実社会での処遇は低く、教育年数が少ないための「学歴の差」があった。進学の道も狭く、約2割が中退を考えていた。第2・第3世代になると、国立大学で高専生の受け人れ枠が拡大し、進路をめぐる課題は少なくなる。
卒業後のキャリアでは、初期世代は「初職の処遇は低いが仕事の内容・権限は大卒と同等で、昇進した」ものも多かった。職場内での仕事を変えたり、より能力を発揮するために転職・起業したりして独自に人生を切り拓いた人が目立った。第2・第3世代になると、転職経験は少なくなり、給与・
昇進など現業への不満が多い、
「欧州勤務時、外国会社の代表者には学卒でないと駐在ビザを出せない、といわれました。欧州は学歴による格差社会で、苦労しましたよ」と語るTさん。「高専の満足度は高いが、学歴の壁によって不遇なキャリアを余儀なくされた人たちもいる。今後、コロナ禍で実現できなかったインタビユー
調査をしていきたい」。
いまでは、進学者が5割を超える高専もある。「優秀」とされる高専生は「大卒」に隠れてしまう一方で、「高専卒」は「安上りで、専門知識があり、勤勉」という企業の評価は高い。文科省は高専卒業生のキャリアパスに関する調査研究を実施しているが、還暦を過ぎた「高専卒」はこれからどう評価されていくのだろうか。(2024年6月1日)