2023年5月31日水曜日

有明海の夕陽

 「どうです、いい景色でしょう。有明海から見る雲仙・普賢岳に沈む夕陽は素晴らしい」ー

 熊本県荒尾市と福岡県大牟田市の県境にある四ツ山公園。小高い展望台に案内してくれたUR都市機構の荒尾都市再生事務所所長がにこやかに語りかけた。すぐ近くで生まれ育った私には見慣れた風景とはいえ、懐旧の情にかられた。

「なにもいうことはなし。ふるさとの景色はありがたきかな、だな」

「観覧席から海が見える」競馬場として知られ、84年の歴史を閉じた荒尾競馬場跡が見える。その跡地を利用し、甲子園球場の約9倍にあたる広大なスマートタウンの建設が進められている。基本コンセプトは「有明海の夕陽が照らすウェルネスタウン」。

 遠くには、渡り鳥のオアシスとしてラムサール条約湿地に登録された荒尾干潟が広がっている。豊かな自然環境を生かし、心と体を癒し、明日への活力を生み出すライフスタイル空間を目指しているという。すぐ真下には、私の母校、荒尾2中の廃校跡があり、その上を有明海沿岸道路(高規格道路)が通るそうだ。

 今年1月、この「あらお海陽スマートタウン」の取材依頼が舞い込んできた。ここ数年、全国各地の「まちづくり」を訪ねてきたが、偶然にも私の故郷の都市再生事業を取り上げることになった。20歳でこの地を離れ、半世紀以上も経つ。両親はとっくに亡くなっているが、思いがけないこの帰郷の機会はうれしかった。

 荒尾市長は、有明高専OB(E13)の浅田敏彦さん。「萩尾坂の先輩のコラム、読んでいますよ」と親しみを込めて切り出し、「暮らしたいまち日本一」に向けた挑戦を熱く語ってくれた。国の「先行モデルプロジェクト」としてヘルスケア、自動運転バス、エネルギーマネジメントなどの先進技術を導入。「石炭のまち」から「ゼロ・カーボンシティ」へとイメージチェンジを図ろうとしていた。

 移り変わりゆく街並みと、変わらない有明海の夕陽。ふと、高専時代、部活などで心地よい疲れを感じながら萩尾坂を下るとき、海の向こうの雲仙や多良岳に広がる真っ赤な夕焼けに見惚れたことを思い出した。あれから、お前は何をしてきたのか。有明海をわたる潮風の、そんなささやきが聴こえた。(2023年6月1日)