AIと読解力
「学校で1から100までよく教えていると思うよ」
教育ドキュメンタリー番組をつくっている知人のディレクターがしみじみと語り、こう問いかけてきた。
「でもね、0から1についてはどうだろうか?」
どうやら基礎的な学びの力、いわゆる読解力の低下が気になっているらしい。
「そだねー」と私にもピーンときた。企業経営者から「若い社員は取引相手の二iズを理解するのに時間がかかる。書いてくる報告書も要領を得ない」といった悩みをよく聞くからだ。
社員の基本的な言葉の使い方に頭を悩ます会社も少なくない。
いま話題になっている本、新井紀子著『AI vs 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)がおもしろい。著者は国立情報学研究所教授で数学者、東大合格を目指すAI(人工知能)「東ロボくん」の育ての親として知られる。AIの可能性と限界、人間との関係の未来を実にわかりやすく語っている。
東ロボくんは東大には入れなかった。だが、MARCHクラス(明治、青山学院など)には楽勝で合格した。それが意味するのはなにか。AIが苦手な分野は読解力で、日本の教育が育てているのは、今もってAIに代替される能力というのだ。
これからのAI社会を乗りきるために新井教授はこう提言している。
「重要なのは柔軟になることです。人間らしく、生き物らしく柔軟になる。そして、AIが得意な暗記や計算に逃げずに、意味を考えることです」
母校の有明高専は2年前、創造工学科一学科に改組された。新入生全員が入学後から1年半、技術全般に関する基礎的素養を学び、工学への動機づけをしているという。すぐにその効果が表れるものではないが、その狙いは大賛成だ。そして半世紀前、母校で受けた教育を懐かしく思い出した。
「あの国語の授業で半ば強制的に本を読まされた棚町知弥(恩師の名)式『読書教育』もまた、読解力をつけるための先進的な試みだったのだ」
(2018年6月1日)