現場の力.
「あいつ、食堂のおばさんに惚れっとたんじゃなかか」
総選挙が公示された10月10日の夜、飛騨・下呂温泉で開いたミニ同窓会。電気工学科2期生が10人集まり、昔話の花を咲かせた。卒業以来初めて見る顔もあったが、気分は一気に青春のころにタイムスリップした。
入学したのは1964年。東京5輪が開かれ、新幹線が走った年だ。出身地は北九州から鹿児島まで。中学浪人組、高校からの再受験組、炭鉱事故で父を失った友……と同期生は実に多彩だった。
それから半世紀。高度経済成長の波に乗り、パナソニック、東芝、NEC、IBM、川崎重工:などの大手企業で級友たちは勤めあげた。
「長時間の残業は苦にしなかった」
「海外派遣、リストラにあったけど、健康第一や」
それぞれの人生経路を披露したところで、最近の企業不正の問題に嘆きの声が相次いだ。
東芝、三菱自動車、日産、スバル、神戸製鋼と長期にわたる大規模な不正行為。日本の製造業は「本社やトップがダメでも、現場の強さが支える」といわれたものだが、いまや通用しない。
企業間の競争が厳しいなかで、経営陣は抜本的な手を打てず、実現不可能な目標を掲げる。省力化、合理化は途切れもなく進み、技術者は自立心を失いがちだ。納期に追われ、不正を見過ごすために現場で創意工夫がなされているのだろうか。
まるで日本社会の底がぬけかかっているようだが、日本型経営の問題にとどまらず、この病いの根は深い。
「おい、いまの高専生に言いたいことがある?」
酔いを醒ます野暮な質問を投げかけると、
「やっぱし、世界の動きをよく知ることやな」
と返ってきた。F君はしみじみといった。
「高専でいろんな本を読む習慣をつけてもらった。あれは本当に
よかったよ」
私もふと、工業教育について語った恩師の言葉を思い出した。
「Don’t teach your students engineering trach be engineers!U」
(技術を教えるのでなく、技術者であることを教えるべきだ)
(2017年12月1日)